ビジネスマンな弁護士さん[前編]

23/12/02

福岡市博多区にある弁護士事務所。博多座のオフィスビル一角に新しく事務所を開業されるとのことでモブに設計依頼をくださったのが、今回、取材させていただいた池辺さんです。弁護士さんに改まってお話を伺うのは初めての経験だったので、内心ドキドキしながら伺いましたが、気がつけばビジネスの話に…。同世代ということも相まって、池辺さんのビジョン溢れる話に終始わくわくする時間となりました。


◉前編
◉中編
◉後編


-今回、設計を進めていくにあたり、どのようなオーダーをされたんですか?

池辺さん:オーダーはそんなに、むしろちゃんとしていなくって、自分の考えとか仕事に対する姿勢をかたちにしていただいた印象です。

これまで在籍していた法律事務所が硬いイメージの雰囲気だったので、もうちょっと柔らかい印象になるように誘導していただけたと思います。もし誘導していただかなかったら、曲線とか半円をモチーフにすることはなかったのかなと。そういう意味では、私からのオーダー以上に自分のことを表現してもらったのかなと思います。

-空間のコンセプトやこだわりを教えてください。

スタジオモブ中尾:法律事務所の性質上、クライアントさんと打合せができるスペースがプライベート空間としてあること、それとは別にスタッフが働く場所が必要であるということで、ミーティングルームのつくり方をどうするかっていうところから議論しましたね。当初は、奥の部屋へとつづく通路を設けようかという話もあったのですが、ただどうしても間口が狭いのでその特性をどう扱うかってときに、いっそのことバツっと空間を切ってしまって、エントランスをミーティングルームにしてはどうでしょうかと。

池辺:そうですね。そこがスタートでしたね。

中尾:バツっと分けるとなったときに「どういう分け方がいいのか」っていうところで、ただ四角く分けてしまうのでは本当にただのミーティングルームになってしまうのと、あとは、入口を開けて法律事務所の風格を滲み出せるようなというところから「空間でファサードをつくる」ことを考えてみました。

-あ、ファサードなんですね。

中尾:あくまでもここは、エントランスというファサード。いろんなテナントが並ぶオフィスビルのなかで、池辺さんの法律事務所であることを入ったときに印象づけられるような、洞窟みたいな重厚感もありつつ柔らかい空間みたいな。池辺さんの印象としても、重たい、暗い、というよりは、重厚感もあるんだけど爽やかさがある印象があったので、色のバランスも見ながら進めていきました。

-お人柄もそうですよね。

中尾:そうそう。ウェブサイトも作りたいということで、空間設計とは別にヒヤリングをさせていただいたことがたぶん大きくて、どんなことを考えていらっしゃるのか、これから何をやっていきたいかっていうのを聞けたことでイメージが沸いて、トントンって進んでいきました。

池辺:そうですね。そのイメージが色づかいにも反映されていると思います。前の事務所がダークブラウン基調で素材も重厚感のある石を使っていたのですが、そういう重厚な雰囲気よりは、もっと気軽に話やすい空間づくりにしたいと思っていました。

-今回は、ウェブサイト制作を起点としたヒヤリングだったと思うのですが、その視点から池辺さんの思考を中心に話をお聞きしていったのかなと思います。いつものヒヤリングと何か違いはありましたか?

中尾:通常、オフィス設計の相談を受けるときって移転が多いので今までの話をしてくれることが多く、それをどう空間へ落とし込んでいくかという話になるんですが、今回は新しいスタートを切るタイミングだったから、今後のビジョンをどうかたちにしていくかっていう。だから、僕たちも現調に来た時点ではまさかこんな空間をつくるなんて思ってもなくて。

-そうなんですね。

中尾:むしろ「細長いですね、どうしましょうかね(笑)」みたいな。そういう意味で、今までの設計とは違う進め方だったのかなと思います。

-改めて、今後やりたいことをお聞きしてもいいですか。

池辺:やりたいことは、たくさんあります。でもまずは、すでに顧問弁護士として担当させていただいている10社以上のお客さまがいらっしゃるので、その方々をがっかりさせないようにすることからです。今までの事務所では、20名以上の弁護士がいて「チームとしてお手伝いさせていただきます」ということだったんですが、これからは私一人になるので最高責任者として「安心して任せていただく」「既存のお客さまをがっかりさせないように」ということからはじめて、自力を蓄えながら新しいサービスを商品にしていきたいと思っています。

私としては、パワハラやハラスメントの防止とか、新しいビジネスをつくる際の規約づくりが強みなので、職場改善や新事業を立ち上げたいと思っている方へ商品を提供していくのが第2弾かなと思っています。その段階でスタッフも増やしていきたいのですが、テーマとしては「弁護士の資格を持っていない人を迎えよう」です。

-資格がない人というのは、どういう意図があるんですか?

池辺さん:今までの弁護士事務所って、資格がある弁護士と資格のないサポートスタッフが半々っていうのが業界のセオリーだったんです。でも、思考が固定されてしまうのがもったいないなと思って、弁護士ってそんなにいらないんじゃないかと。書類も手書きで作る時代ではないですし、スマホでも作れますし。場合によっては書類作成の専門スタッフは必要になるかもしれないけど、弁護士2~3割に対して、その他のスキルを持っている人をどう分配していくか、どういう風に力を発揮してもらうかが大事になると思っています。「ふつう、弁護士事務所ってこうだよね」ではないことをやってみたいというのが、一つのチャレンジですね。

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