一つずつ夢を形に[後編]

23/06/07


◉前編
◉中編
◉後編



齋藤:
先生とのやりとりも本当に楽しかったですね。

先生:本当?私が変なことを言いすぎて、齋藤くんの世界観が表現できなくなったら依頼した意味がなくなるから、それは絶対しないようにしなきゃと(笑)齋藤くんの「こうしたい」を理解しつつ、その延長上でここってこうしたら可愛いかな?できるかな?っていうのは聞いてみて、「いや、俺は絶対こうしたいと思ってる」ってことだったら委ねるし、「どっちでもいいよ」ってことだったら相談しながら、だから「これって絶対かね?」ってよく聞いてましたね。

齋藤:すごいのびのびとさせていただきました(笑)「だったらどお?」とか「これはこうだよね」とか「これいいね!」って言い合えるのは、やっぱり先生の人柄なんだんだろうなぁと。

-設計を進めていくなかで印象的に残っている場所は、ありますか?

先生:やっぱり歯ブラシコーナーかな。最初のプランのときは全体的に仕切り壁を設けてエリア別のゾーニングにしていたんだけど、そうするとベビーカーとか導線が悪くなるってことで、オープンな計画になりました。なので、歯ブラシコーナーも空間の一要素として設計してもらってたんだけど、このエリアは少し用途がちがうから、異素材として「木」を入れられないかな~と。

齋藤:あそこの考え方は僕けっこうすきです。全部を囲ってしまうのはやりすぎなんじゃないかと思ってたんだけど、オープンな空間に対してエリアを区切るときは、バキッと全部囲って徹底的にやり切った方が空間性が上がると思えたきっかけになりました。

先生:すごいインパクトには、なるもんね(笑)

齋藤:でも、オープンだから成り立つというか。個室に対して全面だったらクセが強くなるけど周りが解放されてる場合だったらあり得るなと、最初のプランよりも良くなりましたしね。1つ1つのエリアを丁寧に設計できたというのがこのプロジェクトのよかった点で、条件的に工期を分けなくちゃいけないのが制限にはなったけど、結果的によかったですよね。

-問題に向き合える時間って大切ですよね。この規模になるといくつかの問題が同時進行する場合も多くなるだろうし、何か一つを徹底的にっていうのは現実的にも難しそう。

先生:今回は、新規リニューアルじゃなくて既存のリノベだったということもあって問題点を改善することからはじまったから、もしかするとゼロから作りよりも満足度が高くなっているかも。

-歯科医院もいろいろ形態があるなかで、「矯正歯科」として先生が大切にしていることや今後のチャレンジを最後にお伺いできますか?

先生:今、歯科業界でもデジタル技術が進化しています。「口腔内スキャナー」でスキャンしたデータを3Dにして、患者さんと一緒に治療のビフォーアフターを画面で確認できるようになりました。

昔は歯形を取る手法しかなかったから、物理的にも模型がどんどん増えていくという課題もあったり、診療後に模型を見ながら治療方法を考えることが通例でした。

「口腔内スキャナー」のおかげで歯形をデータ化できるようになって、しかも立体で確認できるから、どんな治療方法で進めていくかのシュミレーションを患者さんと視覚的に共有できるようになったのは大きな進歩ですね。

-その技術は、いつごろからあったのですか?

先生:日本で販売されはじめたのは、2017年頃だったと思います。その頃にようやく、口に入る小ささで立体の映像情報を取り込める精度のカメラができたということで販売されはじめたみたいです。機能のアップデート等もあってその2~3年後頃から、一般開業医に少しずつ普及しはじめた状況ですね。もちろん、シュミレーション通りに治療が進められるかどうかは私たちの技術次第なんだけど「最終ゴールはここだよ」っていうのを患者さんへ伝えやすくなりました。

齋藤:ちょっと種類は違うけどものづくりという視点では、建築とも通づるところがありますね。建物の既存状態によって工事の内容が変わり、矯正歯科の患者さんだと歯の状態で治療過程が変わる。

先生:そうそう。まずは現調というか、最初は検査なんです。それは歯並びだけじゃなくて骨に問題ないかも確認して、もし悪い歯があれば建築でいう「動かせない柱」があるみたいな感じかな。問題点を逃したら後からの起動修正が大変なので、最初にしっかり検査して治療方法を考えて患者さんへプレゼンします。感覚としては設計と施工を両方してるみたいな感じで、途中でうまくいかないことが出てきたら計画修正しなくちゃいけないんだけど、患者さんとのコミュニケーションはすごく大切だと実感しているから、そういう意味でも齋藤くんに共感する部分はすごくありました。

-なるほど。そういう共通点もあってお二人のバランスがよかったのかもしれないですね。

齋藤:今、先生にいただいた盆栽の松を育てているんだけど、定期的に「新しい葉がでてきましたよ~」って報告し合いながら、ひきつづき仲良くさせてもらってます。

先生:苔を植えたんだけど、ふさふさにならなくてどうしたらいい?って相談したり、ね(笑)

-ママ友ならぬ、マツ友ですね(笑)

編集後記
きっと素敵な方なんだろうなという想像どおり、とっても素敵な先生でした。人への思いやりが温かくて、いろんなお話をたくさんしていただいて、まだまだ聞きたいことたくさんなインタビューでした。本編には入りきらなかったことも盛沢山ですが(笑)最後にひとつだけ。アートやインテリアがお好きな先生に、今、ほしいものは何ですか?とお尋ねしたところ「切り株みたいな椅子かな~」と。鳥をモチーフにした壁飾りを見つけられたそうで、その下に置く椅子を探されているとのこと。可愛い…。素敵な切り株を見つけたら、速報しますね。