最近、ウェブコンテンツをつくる機会が増えて思うこと。ウェブだからこそ伝えられることと、ウェブではどうしても伝えきれないことがある。もともと本がすきというのもあって、紙が恋しいなぁと思っていた昨年の年末に「広島におもしろい印刷所があるよ」と教えてもらったのが、《インサツビト》さんでした。
調べてみると、2023年で創業104年を迎えられた印刷会社の老舗《中本本店》さんが新たに始動されたサービスのよう。さっそく取材のオファーをさせていただき、みなさんにお話を伺ってきました。
対話すると印刷がもっと面白くなる。
インサツビトとは
印刷に関する様々なお悩みを解決すべく、
クリエイターが直接、印刷のプロやデザイナーと
相談・対話しながらモノづくりができる
新印刷サービスです。
左から、河村さん(プリンティングプランナー)・木本さん(1級 印刷技能士)・竹内さん(グラフィックデザイナー)・村上さん(DTP兼マシンオペレータ)
-この《インサツビト》というサービスは、どういう経緯で誕生したのですか?
竹内さん:スタートは2021年5月です。その半年前の2020年6~7月のある日、突然会社から僕たち4人に声がかかりました。
-コロナ真っ只中の招集だったんですね。
竹内さん:そうなんですよ。
河村さん:当時はこんなに長くコロナ生活がつづくと思っていなかったというのもありますが、コロナ禍中で立ち上がったプロジェクトです。会社からお題は出たものの社内プレゼンまでまったく時間がなくて。1カ月くらいで企画をまとめ、提案しました。
-どんなお題だったんですか?
竹内さん:印刷機を1台、そろそろ買い替えないといけないね、というのが上層部であったみたいで。ただ、新しい機械を何にすべきか決まってなく、その提案がお題でした。僕たちとしても「こういう機械はどうですか?」だけじゃ意味がない、何かせねばというのがあったので、まず目的をもったサービスを決め、それに適した機械を導入する方向で進めていきました。
もう一つ。中本本店が築いてきた100年のなかで、デザイン部署である《LIGHTS LAB(ライツラボ)》というソフトコンテンツにも力を入れてきた歴史をもっています。だからこそ、改めて僕たちの原点である「印刷」というハードの部分もしっかりやっていきたいという想いもありました。
-みなさんが、最終的に「デジタルオフセット」という印刷機を選ばれた理由は?
竹内さん:これまでの主な顧客は企業で、営業担当が一緒に制作物をつくるというのが通例でした。でも、もう少しターゲットを絞って、「デザイナー」「クリエイター」と一緒にものづくりをやってみるのはどうか。そうなったときに、彼らが求めるものを考えた結果「高品質」であることは外せないねと、デジタルオフセットに辿りつきました。
世の中の流れとしても、小ロット印刷の需要が高まっています。でも、いわゆるレーザープリントのようなオンデマンド印刷って質の悪いイメージがずっとあったと思います。ただデジタル機器でも「いい仕上がりはできる」「面白いものができる」というのは、日頃からデザイナーチームが感じとっていたので、その事実を伝えていくことができれば、もっと多くの人に活用してもらえるのでは?と考えていました。
-新しい印刷機を使用された感想はいかがでしたか?
竹内さん:いいですね!印刷のクオリティ面でもお客さまからの評判がいいと実感しています!というのはデザイナーからの意見で…。機械を操作する側からするとどうですか?
村上さん:ちょっと、じゃじゃ馬系です(笑)
-じゃじゃ馬系(笑)
村上さん:通常、オンデマンド印刷って「粉体トナー」を使用しているため、基本的に誰が操作しても同じ仕上がりになるんですが、このデジタルオフセット印刷は「液体インク」なので、世話が焼けるんです。ちゃんと面倒を見てやらないとインクが紙に散ったり、しわになったり。
木本さん:「デジタル印刷機」という括りであれば、毎日のメンテナンスってほぼ必要ないはずなのに、この子は大いにあるっていう…。
竹内さん:導入に際して、研修も受けましたしね。
-メンテナンスの研修ですか?
竹内さん:それもありました。それから操作方法の研修も。東京からメーカーさんが来られて、修了証がもらえるくらいみっちり(笑)デジタル機では、他にないですよね。
-たしかに(笑)
竹内さん:ウチの木本さんは、より高度な知識と技術を得るために「一級印刷技能士」という国家資格を獲得してたりしますが、まさかデジタル機で修了証が必須になるとは…笑
木本さん:機械の構造部分も、オフセット機の構造を採用しつつのデジタルなので、珍しいタイプではあります。
-このデジタルオフセットの実機があること自体も、珍しいんですか?
竹内さん:日本国内でも少しずつ増えてはきているみたいです。今、ここにある型番(A3サイズくらいまで印刷可)に関しては、日本で最初に導入されたと聞いています。買った当時は「ウチしかないぜ~」って盛り上がっていました(笑)
-デザイナー視点から、この機械の面白さって何ですか?
竹内さん:やっぱり、印刷のクオリティですね。このクオリティで1部から刷れるって、なかなかないと思います。本来のオフセット印刷は、カメラでいうところのフィルムのような役割をもつ「刷版」といわれるアルミの板に焼き付けて、それを機械にセットして、紙を通して印刷するという工程で進んでいきます。だから、例えば「文字を1つ変更します」ってなった場合、アルミの版に焼き直さないといけないから、時間もコストも余計にかかるんです。
でも、デジタルだとそれが不要。デザインの変更を印刷の段階からでもできるというのは、大きな強みだと思います。また、プレゼン資料のように1部しか必要ない場合でも対応できるから、仮印刷とはいえ、本印刷のクオリティで出力できるのは嬉しい。企画プレゼンの段階で「この紙でこんな印刷でできます」って言えるのは、デザイナーとしてありがたい限りです。それを今までは僕たちが独占してたんですけど(笑)でも、それを公開してみんなで楽しもうぜ!いいもの作ろうぜ!っていうのが、このサービスの醍醐味です。
-いいですねぇ。でも実際、1部だけの印刷って会社の売上としては非効率というか、普通だったら嫌がられるのかな?と。
竹内さん:もちろん売上のことを考えると非効率なことは確かですが、面白いもの作りたい!っていう方に活用いただけるのは、僕たちとしても嬉しいです。
河村さん:やっぱり、私たちは「中本さんだから注文したい」って言っていただけるような存在を目指したいと思っています。1日2日でできることではないですけれど、社長が「いいよ」って言ってくれている間は、やりつづけたいですね。