interview:physis 〈前編〉 

22/03/09

 

博多駅から電車で30分。私にとって二日市駅は、太宰府天満宮へ向かうときの乗り換え駅。というのもあって、ここは少し遅いテンポで時が流れている気がします。Google Mapを頼りに山へ向かいながら、人の気配が遠のくのを背中に、方向合ってるよねと何度も確認して、ようやくここだと指しているアパートのポストに「physis」の名前を見つけて、ひと安心。2021年2月にphysisをオープンした店主のあいりちゃんを訪ねました。

洋服を中心に、彼女の感性と呼応した物々たちが集めらた、小さな星のような居場所です。

 

physis

福岡の二日市、少し都心から離れゆっくり時が流れる場所にあるセレクト・ヴィンテージショップ。国籍や時代、ジャンルを越えて洋服を中心にインテリアやアートを取り揃えています。ものではなく、体験として味わえる。ストーリーやデザインがあり日々をつくっていく中でその人の人生に寄り添うもの。変化する自分と一緒に生きるようなものを。当たり前に過ぎる日常の中にきらめきのエッセンスを与えてくれるそんな小さな幸せを一緒に感じることのできる場所になりますように。

公式サイト:https://www.physis-store.com/

 

-physis(ピュシス)って、どんな意味ですか?

physis|あいりちゃん:ギリシャ語で「自然」なんですが、ナチュラルとはまた違ってて、自分で自ら動いていくものに対して、ギリシャの人は「physis」と呼んでいたみたいです。哲学書にはいろんな意味が出てくるのですが、その意味をこれだと分かっているわけではなくて、「physis」って何だろうと、ずっと考えています。

-この言葉に出会ったきっかけは?

physis|あいりちゃん:2020年4月の緊急事態宣言で、家にいる時間が増えたときに、よくラジオを聞いてたんです。大学の哲学の授業が配信されていて、その中で教授が「physis」について説明されていました。何となくふわっと分かるような気がするけど、完全には分からない。だけど、響きと文字が気になる。ずっと、いつか自分の店を持ちたいと思っていたのですが、もし持つんだったら、何か分りやすいものではなく、その名前を聞いたときに意味がはっきり伝わりすぎないもの、最初のイメージを与えすぎないものがいいなと思っていたところに「physis」と出会って、いいなーと。

-そのときはもうすでに、お店をつくるって決めていたんですか?

physis|あいりちゃん:前職が天神のイムズに入っていたテナントだったので、(天神ビックバンで)イムズが閉まるタイミングでつくろうと思っていました。だけどその前に、緊急事態宣言で自粛生活がやってきて。店に出勤できない日が淡々と過ぎ去ることに物足りなさを感じながら「店に行きたい!」という感情が強くなっていきました。オンラインショップも運営していたので、出荷作業のために週1で出勤はしていましたが、ちょっと前まで賑わっていた店に、誰もいない。モノだけ送るというのも、なんだか寂しくて、店に行きたいけど行けないし、店そのものも、もうすぐなくなってしまう…。

オンラインショップって、探しているものをピンポイントで手に入れることができるけれど、探していなかったものとの「偶然の出会い」みたいなのは、なかなかないですよね。でも、偶然の出会いが私はわりとすきで、表紙が好き!と思って買った本が、実は今の自分に必要な本だったりすることがあります。実店舗を継続させていくのが大変な今だからこそ、そういう場所がやっぱりほしい、つくりたいという想いが強くなりました。もともとは、1年後のスタートに合わせて、その前に海外に行ってと考えていたのですが、「今やりたい!」と思っちゃって。だからもう退社しようと決めて、(2020年4月の緊急事態宣言から)5月末に退社して、準備して、翌年2月オープンしました(笑)

-すごいスピード感…。この場所にはすぐに出会えたのですか?

physis|あいりちゃん:前々から物件は探していました。最初は福岡市内の中心地で探していたのですが、範囲を広げてみたら、たまたま不動産に掲載されていたのを見つけて内覧してみたんです。夏だったのですが、陽の入り方がすごくよくて、風も通ってて、感覚的に「ここいいな」という印象で。二日市って、街中から行きづらいことはないけど、あんまり降り立ったことない場所ですよね。

自分の店としてセレクトしたものは、日常の中に入ってはほしいけど、ちょっとこう、デザイナーさんの思考も覗かれるような特別なものでもあります。お客さまにとって、特別なものたちに出会うまでの経路がいつもと違う道のりで、ちょっとだけ特別な時間だったらいいなというのもあって、この場所に決めました。行ったことがない場所をちょっとだけわくわくしながら散歩するような感覚。電車に乗って、車内から見える風景がどんどん田舎になってるけど大丈夫かなとか、辿り着いてみたものの、アパートの一室だし本当に合ってるのかなとか、ドキドキ・ワクワク感です。

-私も、とりあえず一旦、ポスト見ました(笑)

physis|あいりちゃん:そうですよね(笑)なんか、そういうのがあったらいいなと思って。

-商品はどういう風に選んでいますか?

physis|あいりちゃん:あったかみがあるもの、手の温もりが感じられるものが好きです。丸だったら、完全に丸ではなくて、いびつさとか、不完全の中にある美しさがキーワードかもしれないです。〇〇専門店とか、カテゴリーが定まっているとかではなく、ミックスさせていきたい。偶然出会ったものでも、いいなと思ったら持って帰ります。はじめて出会ったものだから色々と調べてみて、そこから新しくまた広がって出会っていく、みたいな感じです。

-あいりちゃんにとって気になる存在ってことですか?

physis|あいりちゃん:うーん。気になる存在…。しっくり入ってきてるものと、気になるものがある気がします。

-しっくりではなくて気になるというのは、違和感がある感じ?

physis|あいりちゃん:「しっくり」の感覚は、自分ではっきり分ります。「気になる」は・・・

-「気になる」が気になります(笑)

physis|あいりちゃん:今までに見たことがなかったもの、手に取ったことがなかった要素、ですかね。そういうものは、基本的に一度持って帰ってきて、店に置いてみます。

-「physis」という言葉に対しては「気になる」と「しっくり」と、今、どのくらいのバランスですか?

physis|あいりちゃん:気になるの方が大きいかもです。

-だんだん「しっくり」になるのでしょうか?

physis|あいりちゃん:店の名前がphysisという言葉であることはしっくりきているのですが、「physis」については、気になります。本当に色んな意味合いがあるから、言葉自体には答えが完全にあるわけではないと思います。それを自分なりに解釈しながら、ものを選びながら、店も店としてできてはいるんですけど、ずっと動いていくもののような気がします。

-physisという店そのものが動いている感じがありますね。

physis|あいりちゃん:いろんな人と関わりながら動いていくもの、という感覚が近いかもしれません。洋服について考えること、それに通づる生活を考えること、大事している根本の要素があるけど、自分の中には不完全な要素もあって、そのこともずっと考えている感じです。

-ずっと、気になっているのでしょうね

physis|あいりちゃん:「いいな」と、思うときの一番はじめは、すごく感覚的です。それを何でだろうとずっと考えながら過ごしてきて、あるときふと、これだったのかということが繋がっていく。physisもこれから生きる上でずっとphysisって何だろうと、店についても、洋服についても、生活についても、人が生きることを考えるときに、physisという言葉は店にとってぴったりだなと思って。だから、店にとってphysisという言葉はしっくりきてるけど、physisは気になる存在です。

-あいりちゃん、ちょっと前までと洋服との距離感が変わりました?

physis|あいりちゃん:変わったかもしれない・・・?
店舗で働いているときはずっとビルの中に居たので、外の景色を見ずして1日が過ぎていきました。ファッションが大好きだったから毎シーズンのコレクションとか最新の雑誌とかをずっと見ていて、「コレクション」という世界で生きていた感覚があります。もちろん、接客をとおして現実の世界ではお客さんに洋服を販売していたのですが、消費的なサイクルのなかで刹那的に過ぎていく世界と、自分とお客さんが生きていく世界との時間の流れ方にちょっとずつ違和感を感じてきました。トレンドはそのシーズンはかっこいいものだけど、お客さんが買ったものはその人と共に生きつづけていく。一瞬で過ぎてしまうトレンドと、自分たちが生きつづけていくことのギャップをどう埋めていったらいいのだろう、という問いです。

洋服はトレンドとして現代の社会が反映されているから必要なもの。ではあるんだけれど、生活の「衣」としては普遍的なものです。この対極なものがなかなか交わらなくて。衣を大切にしている人にはファッションが遠い存在だし、ファッションが好きな人からは衣の存在が遠い。だけど、衣もファッションも、総称して「服」です。伝統的なものも素敵だし、それを、今の感覚で「こういう風に着たい」という表明をしてみたり、その中に現代のデザイナーさんが放つストーリーが込められたファッションが混在してる場所、そういう交点というか重なる場所になったらいいなと思います。変わったこと、といえば、ファッションの世界だけを見るのではなく、目の前の自然の変化や風を感じたりする時間もできたことで考え方に少し変化というか、振れ幅ができたこと、かな。

-今日会ったときの第一印象が、いい意味で「洋服と距離ができたのかな?」でした。前回、はじめましてで会ったときは、洋服のなかにあいりちゃんが居て、あいちゃん=ファッションみたいな、すごく距離が近い印象があったんです。だけど今日は、その間に空気があるような気配があって。距離感が変わったのかなと思いまして(笑)

physis|あいりちゃん:すごい!笑

-その距離感って、わざわざ頑張らなくてもそこに在る、みたいな距離感ですよね。

physis|あいりちゃん:空気を含んでいるような。

-風がとおった感じがします。

physis|あいりちゃん:こういう風に生きていたいなとか、憧れとか、私は服を選ぶときにそれは「要素」として入っているような気がします。

-憧れは近くなったんですか?それとも遠くなった?憧れの方向性というか種類が変わったような感じも受けますが…。洋服だけで服ではないのかもしれないですね。

physis|あいりちゃん:服だけじゃない・・・うーん・・・。え、どういうことですか?

-完成したものの世界に、たとえば風がふわっとやってくると、そこに匂いみたいなのが乗っかってくる感じかなぁ。

physis|あいりちゃん:なんだろうな。
服って、ちょっと場所を変えたりするだけでも、その人が生きる環境にも影響していくというか、私自身、生きる環境を変えたので、大切にするポイントも変わったというか…。

-なんとなく、ファッションは「なりたい自分」を演じるために着るもので、衣だと「在りたい自分」に近づくような感じます。演じるというのは憧れのイメージに近づきたい。一方で、衣はもっと自分の中に近づくというか。そうすると、ファッションからは遠くなるという印象なのかもしれないです。あいりちゃんは、いつもどこにいるの?

physis|あいりちゃん:うーん。どこにいるのか?
私のなかでは、服はどっちも覆っているみたいイメージで、ファッションと衣が交差する場所があるとすれば、その真ん中ですかね。

-しっくりな場所は、どの辺?

physis|あいりちゃん:私が気になるのは、人と服がどういう関係なのか、ということです。服はすきなんですけれど、それと同じくらい、人が気になります。

-人の営みみたいなものですか?

physis|あいりちゃん:何をどんな風に考えてその人はこれをつくったのか、というのが気になります。普段、お客さんと何を話しているかを考えたときに、作り手さんのことを伝えていることが多いんです。「自分自身がどこにいるのか」… 聞かれたのがはじめてだから、考えたことなかったです…。

-あいりちゃんの思考が、あいりちゃんの抜け殻から外に出て、たまに戻ってくる感覚を受けとって、質問しちゃいました(笑)

physis|あいりちゃん:自分だと分からないものですね(笑)

 

 

>後編へつづく