家を引き継ぐ暮らし[前編]

22/03/03

天神から地下鉄に乗って20分ほど、降り立った駅は福岡市西区今宿。目の前には海が広がり、さっきまで街中にいたとは思えないほどの穏やかな景色が出迎えてくれました。この土地に移り住んだ鎌苅さんご家族は、小さな町のような集合住宅に一目ぼれされて一室をご購入。「自分たちらしさのある暮らし」を目指して家をリノベーションをされ、引っ越して間もない新たな住まいに中尾と共にお邪魔させていただきました。

-世帯同士が波のように建ち並ぶというちょっと珍しい建築ですが、この物件に出会ったきっかけを教えていただけますか?

-鎌苅さん:もともと、この物件の近くに住んでいたんです。ちょっと変わった建ち方をしているので、この地域の方なら「あの黄色い家ね」と知っている方も多いのですが、たまたま不動産で物件を探していたときに空き情報を見つけました。自然豊かな場所で、住むためのエリアとしてもよく、何よりおもしろそうな物件。楽しい暮らし方ができそうだなと思って内覧に来たのが、2021年3月ごろでした。

-最初の印象はどうでしたか?

-鎌苅さん:この物件がある今宿」という地域全体でみると、どちらかというと海のイメージの方が強いエリアかもしれないですが、ここは山の香りがする山っぽい家だなというのが第一印象です。今、実際に暮らしてみると、朝は山の中にいるんじゃないかと思うくらいに緑の香りが豊かで、キャンプの朝みたいな澄んだ空気がとっても気持ちいいんです。

-どんな方々が住まわれているのですか?

-鎌苅さん:思ったとおりといいますか、変わった住人さんが多いですね(笑)街中で生活していると、となり近所に住んでいる人のことを知らないケースが多いと思うのですが、この場所を選ぶ人たちだったら、仮に売買や賃貸で住まい手さんが別の方に変わったとしても一緒に生活したいと思えるんだろうなーと。それは思ったとおりで、魅力的な人が集まっています。

-鎌苅さん:「人と関わり合いながら生きていく」暮らし方をしていきたいと思っていたのですが、そもそもマンションだとそんな関わりが実現しづらい造りになっており、規模が大きくなると色んな考えの方がいるので難しいと考えています。もう少しウエット感があるような場所がいいなーと思っていたときに、この場所のコミュニティだったら人との関わりや自然の中で生きていくということができそうな気がして、ここに決めたんです。前に住んでいらした方からもたくさんのものをいただいて、家を引き継がせていただきました。

-「家を引き継ぐ」っていい表現ですね。

-鎌苅さん:そうですね。僕たちのなかに「引き継いだ」という感覚があって、モノとしてのテレビ・エアコン・椅子・古ダンス・エントランスの植物をいじくったときに出ていた石とか、そういうのもそうなんですが、ここに住まわれているみなさんのことや地域のことなど、「情報」も引き継ぐものとして教えていただきました。

-お隣さんにはフクロウくんもいらっしゃいましたね。

-鎌苅さん:はい(笑)フクロウとトカゲとリクガメと犬。ペット部門では一番賑やかなご家族です。

-他にはどんな方が?

-鎌苅さん:仲のよいご夫婦が多いですよ。この建物ができたのが30年くらい前なのですが、その当時に一風変わったこの物件を買われた方って、おそらく暮らしに対しても子育てに対しても先進的なライフスタイルを選択されたと思うんです。当時は、子供もたくさんいてファミリー層が多かったようですが、今は、みなさん子育てを終えられて、ゆっくりと夫婦の時間を楽しまれています。

作品展示|KOKI SUGITA「存在」

-スタジオモブとはどのような繋がりだったのですか

-鎌苅さん:僕が不動産関係の仕事をしておりまして、天神でプロジェクトが立ち上がったときに、中尾さんにお声かけさせていただきました。でも残念ながら計画中(2020年)にコロナがやってきてしまって、そのプロジェクト自体は流れてしまって。ただ、打合せで事務所を拝見させていただいていましたので、いい雰囲気だなと思っていました。

-仕事がきっかけだったのですね。

-鎌苅さん:僕たち夫婦は東京から移住してきたのですが、自分の家をつくるときは「この人と一緒につくりたい」と思える人にお願いしたいと思っていました。その出会いを探していたなかで中尾さんにお会いして、中尾さんならいい家を一緒につくれるんじゃないかと直感しまして。物件見学の後に声をかけさせていただいたんです。

-それは嬉しいです…。ご出身が東京ですか?

-鎌苅さん:いえいえ、出身は大阪です。

-あ、大阪なんですね。なぜ福岡を選ばれたのですか?

-鎌苅さん:仕事の関係で東京にいたのですが、僕が福岡に行きたくて(笑)

-「今宿」を選ばれた理由は?

-鎌苅さん:東京から引っ越してきてた当初から、会社が今宿だったのでまずはこの辺に住んでみようというくらいの気持ちだったのですが、実際に住んでみたらすごくいいエリアでした。ずっと住みつづけるとは思っていなかったのですが、いつの間にか心地よい場所になっていた感じです。

-家をリノベーションされるときに、どんなライフスタイルをイメージされていましたか?

-鎌苅さん:子供がのびのび過ごせて、自然と触れ合えて、家のなかでもワクワクするような暮らしがいいなと思っていました。リノベーションがゴールではなく、完成後も自分たちの手を加えていける楽しみを持ちながら、過ごしていきたいと思っています。

-家族と一緒に、家も育っていく感じですね。

-鎌苅さん:中尾さんにつくっていただいところがこの家の第1章。まだまだ物語はつづいていまして、最近、第2章がはじまりました。

-第2章ですか?

-鎌苅さん:はい、まずは庭造りです。庭も家の一部としていい空間づくりをしていけたらいいなと。まだはじまったばかりなので具体的なイメージはこれからなのですが、土のことや草のこと、雑草、水、環境のことなど色々と教えていただきながら、自然の「循環」について学んでいるところです。

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