文化を伝承する[前編]

24/12/04

2023年7月10日福岡県で発生した豪雨水害により被災した工房を自分たちの感性を頼りに新しい場づくりへの挑戦をはじめられた森山浩一さん(33歳)と典信さん(28歳)。166年つづく久留米絣の工房「藍森山・森山絣工房」の6代目として、共に歩み応援してくれる仲間とスタートしたクラウドファンディングは、わずか10日ほどで第一目標の300万円を達成したという。

20代半ばまで互いの道を歩んできた兄弟は、どちらからともなく生まれ育った工房へ帰ってきた。それは、何かを捨てて何かを選ぶというような二者択一ではなく、それぞれが等身大の青年として暮らし、生き、出会ってきた人との縁によって、必然と辿り着いたように思う。

彼らは私たちに問います。

「数十年、数百年後の日本に、愛すべき文化と呼べるものがどれくらい残っているのでしょうか」

日本の伝統を受け継ぐ担い手として、同世代の彼らが今感じていること、考えていることを、私も自身の日常を参照しながらお話を伺いました。

兄:浩一さん(左)弟:典信さん(右)

 


藍森山・森山絣工房

福岡県八女郡広川町にある久留米絣(くるめかすり)の工房。江戸時代末期の安政5年(1858)創業は現存する久留米絣の工房の中で最も古く、糸の整経・絣の生地づくり・販売まで一気通貫している。

公式サイト|https://aimoriyama.com/


 

弟)典信さん:
そもそも時代に沿わないものは淘汰されていくのが自然の摂理だと思っています。そういうものはなくなっても仕方がない。久留米絣も時代に沿わずなくなっていくのであれば、僕たちの努力が足りなかったというか、なくなって当然のことをしていたからだと思います。だけど、今の僕らの立場としてはまだ久留米絣をなくすわけにはいかない。

そう考えたときに、何を残して何を変えていくのか、ということが大事だと思っています。伝統の技術や文化、歴史という根幹は変えてはなりませんが、最終的な製品としてできあがるものはその時々のニーズに対応していなければ、生き残れないし、残せない。

だからこそ、これまでスタンダードであった衣服という出口から、インテリア→建築分野へ創作を広げる活動を兄が先導してやっていたり、藍染めや絣という素材の可能性と時代との接点を模索しているところです。

 

兄)浩一さん:

時代に沿わないものは消えていく、という視点は僕も同じです。一方で、日本文化のゆく末ついて最近よく考えることがあります。僕たちより一回り上の世代って、海外文化への憧れが強い印象があってそれに反発を覚える自分がいたりします。何を言ってるんだ!って(笑)その感情を観察しながら深堀するなかで、「なぜ日本文化って誇れないんだろう」と考えてみたんです。どこか僕たちって、自国文化を自慢できていない節がある。それって何なんだろう?

もしかすると「日本人」という種族は、自分たちの歴史観とか文化思想をちょっとずつ忘れていってるのかもしれない。

数十年、数百年後、日本文化として残るものについて僕なりに考えてみたら、伝統工芸ってほぼなくなっていると思ったんですよね。残っているのは食文化だけかもって。工芸は需要が減っているのが現状なので、引き継ぐ人も少なくなっています。久留米絣も青年部に属する人は8名くらいだし、その先の跡継ぎがいなければどんどん数が絞られていく。そうなったときの未来、数十年、数百年後の日本人が日本人である所以は何だろうって、最近すごく考えます。

そうならないために、日本人が空っぽにならないように、工芸という文化を残しておくといいんじゃないかという想いで今の僕は動いています。

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