きっかけを紡ぐ場所[前編]

23/06/07

岡山大学の生協食堂がオープン以来のリニューアルをされるとのことで、そのお手伝いをスタジオモブでさせていただきました。どんな経緯でリニューアルが進められていかれたのかとお話を伺いに岡山大学を訪ねたところ、笑顔とユーモアに溢れる加藤さんと中島さんが私たちを迎えてくださいました。さて、今回はどんなお話が聞けるのでしょう…。

加藤さん(左)中島さん(右)


◉前編
◉後編


-加藤さんは岡山大学出身とお聞きしましたが、ご出身も岡山ですか?

加藤さん:違うんですよ。東京で生まれて、神奈川と埼玉で高校まで育ちました。岡山大学へ入学してからはずっと岡山にいるので、人生で一番長くいるのは岡山市です。でも、岡山のことは全然分かりません(笑)

大学生協中国四国事業連合フードサービスの大山さんとのお付き合いも、長いとお聞きしました。

加藤さん:私が学生として入学したときに、大山リーダーが岡大生協で食堂部の店長をされていたんです。当時、大山リーダーもまだ若くて20代後半から30歳なったかな~くらいで、僕も大学生だから20歳前後です。学生委員会で生協の理事もしていたんですけど、当時の大山さんはむき身の日本刀のようにキレッキレでした(笑)それから僕も卒業後に生協の職員になりまして一緒に働くようになってからは、色々とご指導いただきました。大山さんがここで専務をされていたときは直属の部下でしたし、かれこれ20年くらいの付き合いになりますね。

-この建物も、その当時以来のリニューアルなんですよね?

加藤さん:そうなんです。このマスカットユニオンが1997年にオープンして以来になります。だから今回、リニューアルするときに「ごめん、この穴あけてしまったの僕なんよ」っていう方が職員の中にいたりして(笑)学生時代の新歓コンパであけちゃったみたいです。

-歴史が詰まってますね。

加藤さん:岡山大学は当時から学生数が変わらずなんですが生協がなかった時代もあって、そのときは福利厚生が弱かったんですよね。だけど今は、岡大生の食のメインが生協食堂になっているから、彼らの健康と活力の場にどれだけなれるかってことが求められています。今回の改装を機に、ここが単なる栄養とカロリーを捕るための場所ではなくて、空間としても心のリフレッシュになるというか、食事をさらにおいしく感じられる場所にして価値を上げていきたいと思っています。

自分の命を大事にするということは、食事を大事することなんじゃないかと僕は思っていて。食をおろそかにすると命を粗末にしてしまっているというか。「とりあえず、お腹いっぱいになればいい」ということではなく、きちんとした食材や栄養のバランスを考えた食事をとおして、自分の命を大切にしてほしいと思っています。こうやって改めて話すと伝わることがありますが、一食ごといつも考えられるかというとなかなか難しい。

-そうですね。学生のときはお金もないし健康なので、食事の大切さになかなか気づけないかもしれません。でも、のちに社会人になって「あの環境めっちゃよかったやん!」みたいな伝わり方もありそうですよね。

加藤さん:僕自身は苦学生だったから、アルバイトしないと生活ができなかったし、アルバイトやりながらの勉強ってなると、睡眠時間もカツカツでちょっとでも食事をおろそかにしたらもう元気が出なくなっちゃって。だからやっぱり、食事に関してはしっかり取ることを優先してほしいなと思います。

-今回のリニューアルで空間も雰囲気もガラっと変わったので、同じメニューだけど食べる時間の過ごし方や豊かさもアップしたと思います。どういうコンセプトで進めていかれたのですか?

加藤さん:食堂利用者がすごく多いところなので、岡大生にとっての胃袋になるんだ!ってところで、まずは明るい場所にしたいと思っていました。ここで食べたことが思い出になって、例えば社会人になって岡大にくる機会があったとき、久々にマスカに来たしご飯食べていこうかみたいな、卒業もストーリーがつづくような。そのためにも、印象に残る空間にしたいと思っていました。

改装のプランを進めていくなかで、いろんな人から「昼のピーク時の席効率が悪くなんじゃないか」という声もありました。でも、効率よく食べることだけを考えるんだったら、カロリーメイトとか栄養食品とかでいいじゃんみたいなことになっちゃいます。そういう価値観ではなくて、僕たちが空間も含めてやっていることは「しっかり食べよう」「いのちを大切にしよう」「エネルギッシュにやろう」「交流していこう」ってことだと思っています。

-なるほど、すごく本質的なことですね。

学生生活を通じて彼らが横にも縦にもナナメにも繋がって、それは社会に出てもまた繋がって、ここに帰ってきたときは思い出として振り返って、という場所になってほしいんです。ここで食べたから、今、頑張れているなーとか。大学生活あったなーとか。そういう思い出になってほしい。そのためには空間としても印象的になってほしい。

齋藤さんからの提案は「おお!」っていうもので、最初見たときは「こんなのアリなのか!?」っていうくらいで。で、どう考えても席が足りない(笑)もう、すごい葛藤ですよ。何十年間も席が足りない足りないって言われてきましたからね。

でも、足りないのは席じゃなくてスペースなんです。我々が与えられているスペースでの最大効率の席は準備できている。だけど、席というのは数があれば座ってもらえるわけでもなくて、例えば4人席が等間隔にあったとしても2人グループが来たら残り2席には荷物が置かれます。だから今回は、窓際の一人席をちゃんと計算すれば、席数は半減したとしても席効率は変わらないだろうと判断しました。

あと、コロナ禍で「一人でちゃんと食に向き合う」「自分に向き合う」という大切さの発見もあったと思います。一人で食べても違和感がないスペースをつくることで、いろんな価値観を許容できるし、同じ人でも「今日はこうしたい」っていうのがあると思うから、そういった使い分けができることで利便性を上げていけたらと思っています。

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