山口県宇部市に建つ15年間放置された空きビルに計画する小さな美術館。
周囲には低層のビルや住宅が建ち並ぶが空き室が多く、敷地には緑が植えられ静寂につつまれている。クライアントは、89歳の男性。美術品の収集を20代から続け、300種にも及ぶ絵画や彫刻を保管している。今まで、個人の為だけに収集していたが、このまま作品をお蔵入りさせるのではなく、世の中に公開したいと考えた。89年という時間、300種の絵画や彫刻を収集したという事、それ自体が男性の歴史であり、その歴史・時間を込めた空間を設計するということ。歴史や時間を感じられる場所として、森の小道を想像した。夏には碧々とした緑、秋には紅葉し、冬には白く染まった静寂な風景。そこには常に変化という時間が流れている。その変化は自然と自分と向き合った状態にある。
人一人が通れるたった一本の道という建築。一人の男性の歴史・時間と向き合うここにしかない場所なのである。