2023|Hiroshima
新たに計画する広島大学東千田キャンパスの食堂では、食事をする場所だけでなく、法学部の学生や教授が誇りをもち、楽しめる場所となるように設計しました。学校施設のような公共空間は、どこか殺風景でヒューマンスケールを逸脱しがちになり、個人という単位がないがしろにされているとさえ感じます。
しかしここでは、現代のネット社会のスピード感さえも体現するかのように様々な家具を空間にちりばめることで、空港のラウンジのような空間を創出しました。次世代の若者を未来に送り出す役割を「生協食堂」が担い、後押しできる場所になることを目指しています。
従来の食堂では、学生たちは他者とのつながりを持たず、ただ食事をして帰るだけの場所でした。しかし、新しく誕生したこの場所では、隣の人がどんな椅子を選んでいるのかと気を留めてみたり、自分のマイチェアを探し求める学生も現れてくるでしょう。そうした日々によって、自分の好きな場所、好きな椅子を見つけながら「空間の中に座る」という行為が発生していくのです。
椅子やテーブルを介して「場所を選択する」という行為こそが本能的であり、学びであるとも考えています。真っ先に目当ての椅子を目掛けてやってくる学生もいれば、時に譲り合うこともあるだろうし、そのような行為によって嗜好性や友人関係が形成されることも期待できます。もしかすると、ただこの場所に居るだけなのにデザインを学ぶきっかけにもなっていたり、はたまた、洞察力が重要になる法学部の学生にとって、他者への関心は最高の学びになるのではとも思います。
通常、食堂には同じ椅子やテーブルが均質的に並べられる場合が多いため、その場所の記憶は空間に委ねられてしまいます。しかし多種多様な椅子があることで、過去に座った場所の思い出を呼び覚ますきっかけになったり、新たな出会いが生んだ個々の創造性によって、この場所への愛着が生まれていくと考えています。
場所|広島県広島市
用途|広島大学食堂
クライアント|広島大学生協
設計/監理|株式会社スタジオモブ
施工|2023年3月
撮影|exp 塩谷 淳
2023|Hiroshima