モブサーチ01|縮景園 

20/11/09

広島へ越してきて2カ月。

自分の軸を家具にもつ私にとって、原点の椅子から世界を見渡し、デザインの歴史や文化に触れて建築に戻ってきた感覚は、いや、戻ってきたのではなく、また「出会った」に近いのか、とても心地がよい。だから、事務所の図書棚から宮脇檀の本を手にしたことは、建築家の思想をより深く知りたいという欲求で、つまりは、世界のデザイナーが日本から影響を受けていたその「美」はどこから生まれたのだろうという探求心からである。 “movesarch(モブサーチ)“なるものをやろうとなった経緯も必然で、どちらがともなく話が出てきたのだった。

記念すべき第一回目の建築は、直観的に「縮景園」を選んだが、調べていると色んなことに合致した。

『縮景園(しゅっけいえん)は,江戸時代初頭の1620年から,広島浅野藩初代藩主・浅野長晟(ながあきら)が別邸の庭園として築成した回遊式の大名庭園。 江戸時代の大火でその姿を大きく変えているが、元の作庭者は茶人としても知られる上田宗箇(そうこ)。1619年に長晟が和歌山城から広島城に入城した際に同行し広島の地に根づく茶の文化を形成する。宗箇は、豊臣秀吉の側近として多くの功績を残し、千利休から茶を学び、利休没後は古田織部の門下となった』

・・・古田織部

何かの流れで茶の湯に話がいたり、それだったらと、広島事務所で最初に貸してくれた本。それが古田織部が主人公のものだった。独特の感性と大胆さ、ひょうげな感覚を持っていた茶人古田織部と縮景園の印象が重なって、思わず顔を見合わせニヤリ。

松の木がとにかく大きい。

広島市内の街中にこんな広大な庭があるなんて思いもしなかったが、街のスケールに溶け込んだ美術館の奥に縮景園はあった。「縮景園」の文字からして慎ましやかな庭を勝手にイメージしていたが、おおらかというか、のびやかというか、雄大で自由奔放な印象。散策中に度々登場する建物がジブリに登場しそうな可愛らしい出で立ちで、茅葺きの重そうな屋根を纏ってこちらを覗いていた。

この可愛い子さんは、「夕照庵(せきしょうあん)」という8㎡の茶室。ここから眺める秋の夕日に映えた紅葉が、たいへん美しいのだそう。石畳の先には池がつづく。

風景の中にビルを見つけると、あ、ここは街中だったと思い出される。先人はここに立ってどんな風景をみていたのだろう。彩づく葉の美しさは、今も昔も変わらないんだろうな。

池の飛び石を渡りながら、齋藤くんがひと言。
「庭と自然は対義してるって、知ってる?」

ん?

「どんなに人間が自然にあこがれて庭に取り入れようとしても、それは造られたものだから自然を超えることは決してできない。それを理解した上で、先人は庭をつくってたんだって。だから庭と自然は対義しているのだと、おじいちゃんが言うてはった」

もみじの影から姿を現したのは、明月亭(めいげつてい)
景色のより高い山の上にあり、月を鑑賞するという由来で名づけられた数寄屋。屋根は茅葺き、庇は杮葺き。どこを切り取っても絵になるこの美的センスは一体何なんだろう…。八方美人というかなんというか、360°彫刻のように佇まいが美しい。

「例えばね、北側に居室を設けて庭を眺めると、葉が太陽を求めてこちらを向くから木々の美しい表情をみることができるんだよ」

という解説をしてくれながらも、意味を理解できていない私に、道の途中で図を描いてくれた。

うーん、なるほど。
太陽のうつろいと時間、季節によって、その場所でしか体験できない美しさがあるという再発見。どの場所にも善し悪しがあるけど、それを個性として活かすかどうかは作庭者次第ということなんかな。四季があって適度な雨量がある日本の気候は、ほんとうに恵まれているんだと改めて。

最後に登場したのは、悠々亭(ゆうゆうてい)
天明の大改修時に清水七郎右衛門の指示により、建て方も場所も変えてこの場所に移されたもの。茅葺屋根の四阿。

どっしり重厚な茅葺屋根を、え、四本の華奢な柱だけで支えていらっしゃる…。

『数寄屋というもっとも日本的なひとつの理想像としての究極は「透き屋」なのだという。つまり柱はより細く梁もまた細く、壁はその面がより縮小され、建具はあくまでも軽く、風は自在に通り抜ける。そんな透明な建築こそ、数寄屋の求め続けたものであったという説である』  宮脇檀の「いい家」の本|宮脇檀より

こちらは四阿(東屋)なので、宮脇さんの意図していることではないかもしれないが、雨をしのぐ屋根とそれを支える柱のシンプルな構造は、 究極の 「透き屋」 という点で どこか感じ入るところがあった。

灯籠(とうろう)
灯りの籠。音の響きも優しく、夜道を照らす番人のような存在。宝珠、笠、火袋、中台、竿(ここは省略かな)、基礎。ここにも小さな建築をみつける。

ゆっくり一周して気分リフレッシュ。
茶室と数寄屋と四阿、そして庭園。四季を楽しむ工夫と知恵が随所に潜んでいる。だけどそれら全貌が見えるようになるまでには、まだまだ時間がかかりそう。

モブサーチはつづく。

〖建築〗縮景園|広島市中区上織町2‐11
〖 本 〗宮脇檀の「いい家」の本| 宮脇檀・PHP研究所