すきをめぐる旅 

19/12/06

松涛美術館

1951年竣工、白井誠一氏の晩年の作品です。白坂さんおすすめの建築ということで(なかなか渋い!)立ち寄ってきました。入った瞬間の感じる空気に、思わず息をのむ。建築学生時代、はじめての設計トレース課題が「呉羽の舎」だったのですが、当時はこの深い思想を理解できるはずもなく「もっとカッコイイのがよかったなぁ」なんて思っていた若きわたしに、良さを伝えてあげたい。

白井誠一と北欧家具

戦後、日本で初めて北欧家具の展示販売会を開催した際に、ふらっと現れた一人の紳士。仕掛け人であった松屋銀座のセールスマン梨谷さんの接客を隣で静かに聞いていたその紳士が、実は白井さんだったそうです。学生時代(おそらくはじめて)自分で見たいと思って訪れた建築が親和銀行佐世保本店でした。館内見学もできるのですが、思い立って予約もせず行っちゃったので、でも聞いてみるだけ…と近くにいた警備員さんに尋ねたところ、同じ年くらいの娘さんも建築学生ということで快く案内してくださいました。当時は家具のことも全然知らなくて、何を見たか鮮明には覚えていないけど、ただただ、静かな空間に感銘を受けたことが印象に残っています。

それから少し時が経って、柿沼さんにお会いする機会があり、ご本人が柿沼さんとも知らずに親和銀行のことを話していたら、後日、当時の雑誌掲載図面(大波止支店)と写真と白井さんの著書を送ってくださいました。その写真にはスワンチェアウッドレッグ、PKシリーズが置かれていて、ただ残念ながら、当時の姿がそのまま残っているわけではないらしいのですが、潜在的にすきな空間と、今、わたしがすきな家具たちが、時間を超えてつながったことに心動かされたのでした。

そんなことを思い出しながら。

 

日本民藝館

1926年、「民藝」という新しい美の概念の普及と「美の生活化」を目指す民藝運動の本拠地として柳宗悦らにより企画され、1936年に大原孫三郎をはじめとする多くの賛同者の援助の下に開設されました。椅子の歴史を学んでいると、日本文化から影響を受けている外国のデザイナーの多さに驚かされます。彼らが感じていた日本の美ってなんだろうと思ったのが、民藝館に興味をもつきっかけでした。2度目となる今回の訪問は夕暮れどきで来館者も少なく、ゆっくり鑑賞。忙しなく過ぎていく日々に、大切なことに気づかされる場所です。

東大駒場キャンパスが最寄駅なので、東大生になった気分で帰路の電車に乗り込む。

 

神奈川県立近代美術館 葉山館

カイ・フランク展をめざして早朝の葉山へ。晴れた朝はすぐ向こう岸に富士山を望むことができ、贅沢なロケーションを独り占め。

「フィンランドの良心」と形容されるカイ・フランクは、戦後の日本と同じように近代化が進む社会の中で、豊かな生活のために芸術の力が必要だと量産化を進めながらもデザインの力で人々の心を豊かにした人物です。イッタラの「ティーマ」シリーズで有名ですが、ガラスの作品もとても美しく、とくに1930年代ごろに制作していたアートピースは、ミニマルな造形と繊細な色彩をもっていました。

美術館エントランスには、イサム・ノグチの「こけし」がお出迎え。かわいい。

きっと、世界にも日本にもまだ知らない素敵なもの、空間がたくさんあるのだと思います。みつけていきたし、出会っていきたいし、わたしたちも生み出していきたい。