2023年5月にリニューアルオープンを迎えられた愛犬と過ごす温泉旅館「川の駅」HONJIN さん。2年半のプロジェクトを終えてひと息つかれたオーナーの大庭夫妻に、改めてお話を伺いました。
-リニューアルオープンおめでとうございます。今の率直な感想はいかがですか?
理紗さん:率直な感想は、ぐったりです(笑)初めてのことばかりなので朝から晩まで、体力を使い果たしております(笑)
-世代替わりされたお二人での運営は、この5月からなんですよね?
大庭さん:そうですね。
理紗さん:おしぼりの並べ方・お箸の置き方から勉強したり、昔からの仲居さんに教えていただいたり。毎日がバタバタです。
-豪雨災害からもう3年でしょうか?
大庭さん:7月で丸3年になりましたね。
-リニューアル後の姿を想像できなかった部分もあると思うのですが、不安はありませんでしたか?
理紗さん:水害があってすごく大変だったのですが、もしこのきっかけがなければ建て直しもしてなかったでしょうし、昔のスタイルをなんとなく受け継いだまま日々を過ごしていたかもしれません。
大庭さん:自分たちの好きなようにはできていなかったかもしれないですね。そういう意味では、色々と考えたり区切りをつけるきっかけになったと思います。
-具体的に「いつからお二人が旅館を継ぐか」みたいなことは決まっていたんですか?
大庭さん:いつとは決まってなかったですね。父もまだ現役でやりたいという気持ちがあっただろうし、すぐに世代交代という感じではなかったです。ただ今回、新築を建てるとなったときに長い目で見ると借金を負うのは僕たちなので、自分たちの信じる方向性でやってみたいという思いが僕たち夫婦のなかにありました。
豪雨災害の前にも一度、裏山から土砂が流れてきてその時にも建て替えの話は出ていたんですけど、うまく踏み切れなくて。結局、リニューアルというよりは2階を少し整えたくらいで終わりました。
-この規模ですからね、全館リニューアルの決断はなかなか難しいと思います。
大庭さん:今回のリニューアルを決めたときに、父にもやりたいことがあったみたいです。ただやっぱり、昔からの考えから抜け出せない部分もあって。
理紗さん:デザインを周りの景観に合わせた「まち全体が旅館」みたいブランドづくりもあると思うのですが、かといってこの街が統一された雰囲気をもっているかと言えばおそらくそうでもない。ただ単に周りと同じものをつくっても面白くないんじゃないかと。
-最初のコンセプトを決めるときは、どんなお話をされたのですか?
大庭さん:愛犬と泊まれる旅館として営業していたので、お客さまのほとんどが愛犬連れだったから、より一層「犬と一緒」というものに特化しようと。せっかく新築するんだからもっともっと犬目線でやっていきたいなというのはありました。
-鉄筋コンクリート(RC)造になったのは、構造の観点からですか?
大庭さん:もともとの旅館は木造だったこともあり、音が響いてしまうのが課題の一つにありまして。RC造だったら防音効果もあるし、構造的にも強いしということで決まりました。
-デザインの要望はありましたか?
理紗さん:中尾さんから「どういうイメージですか?」というのを聞いていただいてたので、インスタでかっこいい系をスクラップした画像をイメージとして伝えて、そこからは中尾さんがまとめていってくださいました。
-「かっこいい」というのは、最初からあったんですね。
理紗さん:そうですね。ロゴ決めのときから、「かわいい」よりは「かっこいい」。そのロゴが入ったTシャツを着ていてもおかしくないような。
-そういう意味では、ズバリ、かっこいい空間になりましたね。先ほど、玄関に設置されたロゴのプレートを見たのですが、めちゃくちゃかっこよかったです。
理紗さん:あのロゴも、すぐに決まったよね。ロゴデザインの相談で梶原さんを訪ねたときに、焼山さん(BRICKHOUSE代表)と、田中さん(Acht代表)も事務所にいらっしゃってて。
大庭さん:ちょうどそのとき、東京オリンピックの時期だったから「ピクトグラムみたいなデザインがいいな」と話をしてて。
理紗さん:そしたら、梶原さんに「こういうのがあるよ」と見せていただき、「こういいのがいいな~」って言ってたら、周りの方々からも「DOG&HOTEL」というコンセプトを出していただいて、そのときに愛犬宿のきっかけとなるラブラドールの話をしたら「ラブラドールにも見えるね」ってことでこれがいいんじゃない?と。たぶん20分くらいで決まりました(笑)
-ロゴのヒントが「ピクトグラム」だったというのを、今、はじめて伺ったのですが、すごくしっくりきました!パッとみて記号的にイメージできるし、▼と●のシンプルな構成なのにラブラドールに見えるという。
理紗さん:犬にも見えるし、犬を飼っていなくてもロゴとして魅力的。洋服にワンポイントあってもいいですよね。
-エプロンにワンポイントあったら良さそうです。
理紗さん:そうなんです。オープンには間に合わなかったんですけど、実はエプロンにロゴを入れたくて。
大庭さん:ただ、制作に1~2週間かかるらしく…。
理紗さん:実物を持っていかないといけないんだよね。
大庭さん:で、縫っていただかないといけないみたいで(笑)
-それは絶対にかわいいですね!ロゴって、入れるとダサくなっちゃうパターンが多いと思うんですけど、HONJINさんの場合はむしろグッズ展開もできそう。丸ぼうろ(日田とらや)の焼印もかわいいですし、オリジナルのギフト箱もつくってお菓子セットがあれば土産に買って帰りたいです。
理紗さん:実は、YELLOW BASE COFFEEさんにCOFFEEBOYさんに相談したらオリジナルブレンドがつくれますよって教えていただいて。色々やりたいことに溢れています(笑)
-お客さまの反応はどうですか?
理紗さん:まだ1日1組ずつしか受け入れていないので少しずつなんですが、40~60代くらいの層が多いですかね。そういえば先日、ふらっと帰省してこられた若い方が立ち寄ってくださって、珈琲を飲んでいってくださいました。
-たしかに、宿泊しなくてもふらっと立ち寄れるような「カフェ」の機能があったらいいですね。
理紗さん:体制が整えば、14~16時くらいの時間帯ならできそうだよね。土日だけでも。そのためにもオリジナル珈琲をつくりたい(笑)
大庭さん:僕たちにもう少し余裕ができれば、ランチもできそうだなとか。「ドッグガーデン」としても活用していただけるように、もっと自由に行き来してもらえるようにしたいですね。
-「愛犬と泊まれる温泉旅館」として、これからどんな場所づくりをされていきたいですか?
大庭さん:一番はやっぱり、ワンちゃんにとっても家にいるように過ごしてもらいたいというか、環境を整えてあげたいというのがコンセプトですね。
理紗さん:環境が変わるとワンちゃんも緊張するだろうし。
大庭さん:ずっと一緒にいるのに、旅館だとワンちゃんにとって制限があるというのは僕たちとしても嫌なので、なるべく家にいるときと同じような安らぎをワンちゃんにも提供したいです。
理紗さん:お客さまに「ワンちゃんとベットで一緒に寝ていただいて大丈夫ですよ」とお話すると、みなさんすごく喜んでくださって。「おねしょしてしまってすみません」と、謝って帰っていかれるお客さまもいらっしゃるんですけど、全然気にせずに過ごしていただきたいと私たちは思っていて。
大庭さん:泊まりにきてくださっているはずなのに、最後に申し訳なさそうに帰っていかれるのを見ると、僕たちとしても気を遣わせてしまって申し訳ないなと…。
理紗さん:そういうのも全然気にしなくていいような環境づくりをしていきたいなと思っています。
-やっぱり、お二人の視点は常に「ワンちゃんにとって居心地がいいように」ですね。
理紗さん:そうですね。人間よりもワンちゃんですね(笑)
-ワンちゃんにもインタビューできたらいいのに…。
理紗さん:そうなんですよ、ワンちゃんの気持ちが分かるものがあればいいんですけど。
-AIも進化してきているから、動物とも会話できる技術がそろそろ出てこないかな(笑)
理紗さん:(笑)赤ちゃんの泣き声で感情が分かるアプリ?みたいなのは、最近何かで見ましたよ。
-へぇ~!それはもう、ワンちゃんの気持ちが分かる日もそう遠くなさそうです。
-では最後に、プロジェクトメンバーにメッセージをお願いします。
理紗さん:ただただ感謝しかないですね。みなさんがいらっしゃらなかったらこの建物はできていないですし、私たちだけでは出会うことができなかった人とも繋がることができました。もう「ありがとうございます」の一言しかないですね。
大庭さん:設計士の中尾さんからはじまって、そこから先の業者の方とは接点がないと思っていたんですけど、みなさん「業者さん」というよりは同じ立場で話してくださるというか、個人としての知り合いが増えたというか。
理紗さん:それぞれの方からいろんな話を聞くことができましたし。
大庭さん:新鮮でしたね。とっても楽しかったです。本当にありがとうございました。
編集後記
応援メッセージをいただいたみなさんがおっしゃっていたのは「なによりも、大庭さん夫婦の人柄だよね、だから応援したくなる」ということ。人に対してもワンちゃんに対しても「心から安らいでもらいたい」という気持ちが言葉一つひとつに表現されていて、こうやってHONJINファンは作られていくのだろうなと思いました。これからもお二人のファンとして、モブ一同よろしくお願いします!