暮らしを、再編集する

23/04/28

福岡市南区に、街を一望できるすてきな住まいがあります。戸建てと思いきや、あれ、なんか違うぞ?と、一瞬ここがどこだか分からなくなる不思議な立地。2022年にリノベーションをされたTさんご家族のご自宅にお邪魔して、ここでどんな暮らしをされているのか、お話を伺いました。

 

-マンションの屋上テラスに一軒家が建っているような、めずらしい造りですね。

スタジオモブ中尾:「ペントハウス」という造りで、マンションのオーナー物件になるんですよね。

Tさん:そうですね。もともとは、このマンションを建てられたオーナーさんの部屋だったと思います。

-Tさんご家族とスタジオモブとのつながりは?

中尾:これまた不思議なご縁で(笑)

奥さま:山口のカフェ〈COFFEEBOY〉さんのポップアップショップが天神の西鉄福岡駅に来られていたときに、珈琲豆を買ったんです。そのときの什器がすてきで、「どなたがデザインされたんですか?」と尋ねたら、「スタジオモブの中尾さんです」と教えてくださって。珈琲豆と”スタジオモブ中尾さん”と書かれたメモをいただきました。

それから4年くらいしてこの場所をリノベすることになったとき、家のなかを整理していたらそのメモが出てきて「あ、そうだった!この方にデザインを頼もうと思ってたんだ!」って思い出して。

中尾:それで連絡をいただいて、一度お話を聞かせてくださいと事務所に来ていただいたのがはじまりです。

-すごい!

中尾:でも、その話も後から聞いて(笑)竣工してから「そういえば…」って。

奥さま:どうしてスタジオモブに依頼を?ということも改めて聞かれることもなかったから、お伝えする機会がなく…(笑)

-COFFEEBOYさんも、ポップアップでたまたま福岡にいらしていたんですよね。

中尾:そうそう。そのときも知人からの紹介で什器の設計をすることになったんですが、もし、あのときスタッフの方がTさんにメモを渡してくれてなかったら、僕のことも思い出してもらえてなかったですよね。

奥さま:そうですそうです。口頭のやりとりだけだったら、思い出せなかったと思います。

-それから、一緒にこの場所を見にこられたんですね。

中尾:リノベする前に一度お邪魔させていただいて、現調して、打合せして。

-そのときはどんな提案を?

Tさん:一番最初のプランは、全然ちがいましたよね。

中尾:そうですね。今回は、打合せさせていただきながら1つ1つ決めていった感じで、「それだったら、こういうのがいいかもしれませんね」みたいな感じで。

Tさん:はじめは、小屋もなかったですしね。

-あ、小屋はなかったんですか?

中尾:ロフトはもともとあったんだけど、こういう「かたまり」にするという話はなくて。それで、何のときだったか、アウトドアとかキャンプが好きという話を伺ったときに、テーマとして「アウトドア」や「キャンプ」がキーワードに挙がってきて。

Tさん:打合せの度に、どんどん進化していきましたよね。

中尾:そうですね。打合せのなかで、ブラッシュアップされていったというか。

Tさん:2022年1月が最初の打合せだったと思うのですが、それから半年くらいかけて計画していきました。

-空間が広いので、日差しや空調のことも考慮されながらこの間取りになったのかなと思ったのですが…。

Tさん:そうですね。「サンルーム」は結露対策や熱対策で設けています。空気の緩衝材として、熱を防ぐというのが目的です。

-なるほど。空間ありきではなく、そういったことも考えられながらつくっていかれたのですね。サンルームは、すごく気持ちのいい場所でした。

Tさん:めちゃくちゃいいですよ。人が集まれる場所というか。以前は、父のところでよくBBQをしていたのですが、今はみんなこっちに来てくれて。近くに住んでいる親戚や子供たちもみんな年齢が近いので、一緒に遊んでいます。

中尾:僕も一度、奥さんと一緒に参加させていただいたんですが、またびっくりなのが、ここに来られていた方の娘さんが奥さんの同級生だったみたいで。「あれ、もしかして?」という再会をしていました(笑)

-家のなかに集う場所がいろいろとあるというのが、いいですね。

中尾:このまっすぐ抜けた空間がいいですよね。外でBBQしながら、リビングでもくつろげるし、小屋にいる子どもたちとのコミュニケーションもとれますし。

Tさん:子どもたちはここに来ると、みんな小屋に籠って、映画みたりゲームしたりしていますね。

中尾:この場所が家の中心になっていますよね。

Tさん:コンセプトも、そうでしたね。

中尾:玄関を入るとちょっと落ち着いた雰囲気の空間があって、そこから開放的な大きな空間が広がる。寝る場所はまた少し静かな場所で、という3つの構成ですね。

-はじめて竣工写真を見たとき、リビングの奥にまさかこんな空間があると思ってなくて。部屋があるなとは思っていましたが、こういう風に廊下みたいな場所を挟みつつ、違う世界が広がっているというか。

奥さま:この家っていわゆる「廊下」がないんですよ。

-あ、たしかにそうですね。

奥さま:それが、プライバシー的に大丈夫なのかなと心配していたのですが、入口が2つあることで、夜、私と子どもが先に寝ていても、邪魔することなく旦那さんは寝室へ入ってこられます。

Tさん:こちらから入って、ドアを閉めて、電気を消したら大丈夫。

奥さま:ぐるっと回れる導線が、思った以上に便利でした。

-部屋の仕切りの扉を閉めてしまえば、個室にもなりますしね。

中尾:その導線も打合せをさせていただきながら「あ、その場合はこうした方がよさそうですね」とか、「導線をつなげて回遊させてみましょうか」みたいに決めていきましたね。途中、中央に扉を付けた方がいいのか?という議論もあったのですが、それはなくてもよさそう、とか。

-中央に扉があったら、この奥に何かあるんだろうなと感じちゃうところを、それがないのでこちら側が一つの空間として強調されているような気がします。

中尾:大きな間取りは実は変えてなくて、キッチンもロフトも寝室も、この場所にもともとあったんだけど、

Tさん:見せ方を変えたというか、

中尾:そうですね、再編集したって感じですよね。

Tさん:予算の問題もあったので、大きく構造は変えずに何ができるかを考えていきましたね。

-でも、その制限があったからこそ、アイデアが見事にハマった気がします。

中尾:それは確実にありますよね。

Tさん:もし予算が無限にあったら、全然ちがうものなっていたとは思いますが(笑)

中尾:でも、逆に困ったと思います(笑)この大きな空間をどうしようって(笑)

-途中経過の打合せも、きっと楽しかったんだろうなぁと想像します。

Tさん:僕たちはとても楽しませていただきました。

-廊下がないからこそ、この床の切り替えが効いてますよね。

中尾:そうですね。これがある種、廊下の役割を果たしてくれていると思います。

-もし、ここが同じ素材だったら“いきなり感”が出てしまうそうですが、素材が切り替わることで空間は同じなんだけど、気持ちがリフレッシュされるというか。

奥さま:ここ、最初は引き戸の案もあったんです。全部オープンにできるように。

Tさん:ダブル障子だったんです(笑)

奥さま:でも、ネコがいるから大丈夫かなと扉にしていただいたら、玄関の薄暗いところからリビングへ入ってきたときの明るさのギャップがすごくおもしろくって。

-エレベーターからここへ上がってきて、玄関の向こう側にこんな景色が広がっているなんて、想像できないですよね。

中尾:Tさんご家族の要望と、僕たちが考えてきたことがうまく結んでできた住まいだと思います。でも、最初からこの案は出なかったですよね。

Tさん:出なかったですね~。半年の積み重ねがあったからこその、この家だと思います。

 

編集後記
四季折々の景色を一望できるこの立地は本当に気持ちよく、Tさんご家族らしい住まい方や楽しみ方をされているライフスタイルがとっても素敵でした。バルコニーのBBQも、サンルームでのリラックスタイムも、小屋に籠って映画鑑賞も、ぜんぶ家のなかでできちゃいのがうらやましい…。今年はこの家で迎えるはじめての夏ということで、賑わいの声に溢れているんだろうなと想像します。Tさん、ありがとうございました。