そうして、空間は成って

23/05/11

福岡県西区今宿エリアに、海を眺めながらバーベキューが楽しめるビーチ「CALIFORNIA B.B.Q BEACH(カリフォルニアBBQビーチ)」があります。「エアストリーム」というアメリカ生まれのキャンピングカーが、いかにして最小限の空間として立ち現われていったのか。本プロジェクトのクライアントである藤原さんにインタビューさせていただきました。

CALIFORNIA B.B.Q BEACH

〒 819-0162 福岡県福岡市西区今宿青木1119-1
TEL : 080-7396-9740 (11:00-17:00)
OPEN : 11:00~21:30 (LO. 19:00)
HP:http://calbbqbch.jp/

 

-今回、エアストリームの改装第2弾ということですが、スタジオモブへの依頼はどのようなきっかけだったのですか?

藤原さん:CALIFORNIA B.B.Q BEACHは、今年で8年目を迎えます。そのときからエアストリームはありました。5年ほど前に一度だけ内装をきれいにしたのですが、それからまた少し老朽化をしていたので、改装をすることになりました。

どこにお願いしようかなと福岡の知人に聞いたところ、中尾さんを紹介してもらったのがはじまりです。改装するにあたって、自分たちの中でも「ああしたら、こうしたら」という案があったのですが、中尾さんからの提案がすごくよくて。あ、これだったら私たちが思っていた以上の空間になるんじゃないかというのがありました。本当は、その時点で3台すべての改装をやりたかったんですけど、まずは1台やってみようということで「ピンク」を改装したのが、2022年でしたね。

-そのときは、どんな提案を?

スタジオモブ中尾:もともと「イメージ」みたいなのは持たれていましたよね。女の子がメインターゲットで、インスタ映えするみたいな…

藤原さん:すごくベタな資料を用意しました(笑)今から考えるとめちゃくちゃはずかしい(笑)それを上手く中尾さんが編集してくださって、施工方法も含め、とても私たちだけでは出てこない案を提案いただきました。

中尾:エアストリーム=車というスケールは、建築ではないけど最小限の空間なのではと。そのなかで、いろんな要素を詰め込むというよりかは、テーマを決めて一つの素材でやりきってみてはどうですか?というのが最初の提案でした。例えば、全部「木」でやってみるとか、FRP で覆いつくすとか手法を色々と考えてみたんですが、ここを訪れた人が写真を撮りたくなるインパクトや特別感を演出するために、「ピンク」という色で統一することを目指してスタートしています。

-いい色の「ピンク」ですよね。

藤原さん:そうですね。

中尾:カルフォルニアピンです。

-そういう色があるんですか?

中尾:色の名前ではないんだけど「カリフォルニアピンク」というのをテーマにしています。夕日が沈む瞬間のマジックアワーのように、空と海の青と夕陽の赤が混ざり合ってピンク色になる瞬間があって、この場所のコンセプトも「カルフォルニア」だから、そのイメージで「カルフォルニアピンク」にしましょうと。

-最終的には、どんな素材を選ばれたのですか?

中尾:「モールテックス」という左官素材ですね。

-穴ぐらのような質感もあって、とても心地いいです。

藤原さん:そうですね。もともとはキャンピングカーなので、改装前は外が見えなかったんですよ。

-ああ、たしかにそうですよね。

藤原さん:この中は冷暖房を完備しているのでみなさんここで休憩されていますが、食事をするときは外ですし、外に出ないと海の景色が見えなかったんです。でも、このロケーションで海が見えないのはやっぱりもったいないと。中に居ながらも外の景色が見えるようにガラスを入れていただきました。

-今までは、このガラス部分が壁だったってことですか?

藤原さん:壁でしたね。だからここに座ってても何も見えなくて。

中尾:今回、建築的には「改装」ですが、海に対する場所として「本来どうあるべきか」を考えることがやっぱり大切なんじゃないかと。手法として、開口を大きく開けることが主題になる中で、開け方をいろいろとリサーチしていくと「車でも切れる」ことが分かってきました。あ、車って切れるんだって(笑)建物であれば、構造を考えないといけないところですが、車の場合は板金でつくられてるので、どうやら補強すれば切れるらしい。それだったら、ガバっと開けてしまって、外の景色を眺められるようにしました。

それが発想の拠所になって、開口した部分を外からでもテーブルとして使えたり、中からでもちょっと座れたり、というところで進めていきました。それが第一弾の「ピンク」です。そこからさらにブラッシュアップさせた今回の「ブルー」と「イエロー」では、より景色をクリアに見せたいということで、サッシの枠すらも細くすることにチャレンジしています。

第一弾ピンクのときは、ワ―ケーション感覚で仕事ができるのもいいんじゃない?ということでデスクを設けていますが、今回は、居場所や座れる場所をたくさんつくるのもいいねと、テーブルは作らずに「ベンチ」で構成しています。

-このぐるっとしたベンチによって囲われている感もあるし、人との距離感も程よくとることができて、好きな場所を選べるのがまたいいですね。あと改めて、「窓」という要素があることで「空間」になり得るんだな~と実感しています。

中尾:そうかもしれないね。

藤原さん:実は今、向こうのレストラン(オーシャンハウス)で「ラグジュアリー記念プラン」という、プロポーズプランのような企画を出しています。食事とドリンク、ケーキ、花のブーケがセットになっていて、さらにオプションでレストラン個室でのサプライズができるようになっています。ご希望の方は食後に移動していただければ、エアストリームでもサプライズができるようにしてまして、もうすでに6件ほど入ってるようです。

中尾:え、そうなんですか!

藤原さん:来週の土曜日に、エアストリームご希望の方が予約されていましたよ。

-それはドキドキしますね…。そのアイデアの着想はどこからですか?

藤原さん:記念日プランはスタッフが発案してくれた企画ですね。「エアストリーム」という空間は他のレストランではできない私たちの強みなので、当初はここで食事をしていただこうと思っていました。ただ、レストランからの距離もあるし今はまだ体制的に難しいので、まずはここを「サプライズの場所」として活用できれば、話題になるかなと。

-夕暮れどきにレストラン食事をして、少し暗くなってきたらデッキを歩いてここへきて、音楽も聴きながら…

藤原さん:キャンドルも灯して。

-いいですね~、素敵です!

中尾:つくった空間をいろんなことで使っていただけるのは、僕たちとしても嬉しいです。空間ができたとしても、それはまだ名もない空間というか、お施主さんや使い手さんの方で色々考えて使ってもらえてはじめて生きるというか。そういった意味でも、今回デスクをなくした理由として、デスクを付けると「デスク」として使われちゃうから、あえて機能を決めずに決めたのはベンチくらいです。もしテーブルが必要なときは既製品を持ってくればいいですし、建築として作り込む空間は背景に徹したいですね。

-こういう「別荘」がほしいという需要もありそうですが、いかがですか?

藤原さん:ここは市街化調整区域なのでこの場所での宿泊業はできませんが、アウトドア事業をやりたいというのはもともとあったので、提案資料を最初に見たとき、これはアウトドアも行けそうだと思いました(笑)建築を建てるのは大変ですが、これだと持っていけるので、海でも山でもちょっとした土地があって整備さえすれば、何かできそうだなと。キャンプ場にこういうのがあってもいいですよね。

中尾:できることならサウナも…笑

藤原さん:サウナ、したかったですよね~

中尾:したかったです。途中段階でのアイディアは色々出ていて、こうやったらできるんじゃないか案は、いっぱいありますね(笑)

 

編集後記
どうやらメンズたちの夢は、膨らむばかりのようです…笑
建築でも車でもない「最小限の空間」だからこそ提供できる体験や価値があるんだなと、改めて感じることができたインタビューでした。プロポーズ大作戦のゆくえも気になりつつ、みなさんの新しいチャレンジをこれからも応援させていただければと思います。藤原さん、ありがとうございました。