丘の頂をめざしゆく[後編]

23/01/06

-今回のリニューアルを振り返ってみて、いかがですか?

加納さん:齋藤さんの提案がニクかったですね~!コストのこともちゃんと配慮していただきながら、でもここまでがんばるとこう変化しますよ、というプレゼンはニクイ(笑)学生を見ていると、壁紙は触らないけどジョリパッドは触っているし、既製品は触らないけど造作品はやっぱり触るんですよね。実はそれも狙いの一つだったんです。

大学の成績とは関係ないのですが、学生には肌で感じることとか本物に触れることで、自分への投資にしてほしいと思っています。安くてコスパもよくて近くにあるものは便利ですが、一方で本物は値段も高いし手に入りづらい。でもいつかはそこに到達しよう、努力しようという経験を、このキャンパスの中で体感してもらえたらと思っています。

-生協は大学の中にある施設ではあるけれど、学生と教授という関係とまたちょっと違いますよね。大学で知の供給は受けられるけど、だたそうじゃないもっと大事なことって、意外なところに散らばっていると思うんです。それを「生協」という立場から、学生たちを見守っているみなさんだからこそ、届けられることがあるのではと思いました。

加納さん:そうですね。私たちは、こうなってほしいと押し付けたり声高にもの申す組織ではなく、気が付けばいたという存在でありたいと思っています。卒業しても「あのお弁当、久々に食べたいな」くらいの存在でいい。毎日通うことが習慣になって、ここに来ることでちょっとでも元気になってくれればそれでいい。こんな商品あったとか、ここにくれば誰かに会えるとか、さりげないけど傍にいることを目指したくて、それはリニューアルしないと実現できなかったことです。だから今、ようやくスタートラインに立つことができました。

 

-これからの展望はありますか。

加納さん:学生の反応から次のヒントをもらっています。レジカウンターの高さもいい意味で順応してくれていて。いろんな店に行ってみましたが、今はスーパーでも高めに設定しているんですね。本来あるべき姿はカウンターを低くすることではなくて “相手と一緒に動くこと”だったなと。

お昼ともなれば、ここに200人ずらーっと並びます。ぎゅうぎゅうです。普通だったらイラっとするくらい(笑)でも、並んでいる間も楽しそうなんです。

私たちのミッションは “昼休みの時間内に食事を提供して授業に戻すこと”だから、じゃあどうするかというと「最後尾こちらです!」とか「こちらへどうぞ!」とか、効率よく誘導する。じっとなんかしていられません(笑)スタッフのちょっとした声かけが学生にとっては支えになるかもしれないから「行ってらっしゃい」「今日はこれだけでいいの?」という小さなコミュニケーションも大切にして日々がんばっています。

齋藤:そういう想いを聞くことができるのは、僕たちにとっても励みになります。

加納さん:今、来年度へ向けて学生たちと “新入生をどうサポートするか”を話し合っています。その様子をみて自分も仲間に入りたいと思ってもらえたり、彼らが想像してもみなかったことを巻き起こしていけるような「完成しないお店」が目標です。きっと完成するはずはなくて、いつまでも丘の頂をめざしつづけようと思います。

-完成しないお店、いいですね。

齋藤:胸につけている缶バッチも可愛いい。

加納さん:あ、これですか?齋藤さんにつくっていただいた缶バッチをみんなで付けています。学生にも無料で配布しているんですが、もう大人気で在庫が減ってきちゃいました(笑)

齋藤:今回はサイン計画からショッピングバックまで全部、ブランディング戦略にも携わらせていただきました。こうして眺めているとやっぱり統一感があって素敵ですね。

加納さん:そうですね。グッズの中でも缶バッチはその場ですぐに付けてくれるんです。サイズ感もちょうどいいんでしょうね。あと、生協感が全くない(笑)

余談になりますが、HILL PEAKをつくるまでは “大学生協のアイデンティティ”みたいなものを確固たる信念として持っていたんです。なので、どの書類にもユニバーサルデザインとして「UNIV.co-op(ユニブコープ)」を付けていたんですけど、学生からしてみたらトートバックにこのロゴは絶対に付けない。その視点がすごく大事だったことに気づきました。

齋藤:今までやっていたことを「やらない」と決めたことも、すごい決断ですよね。普通だったら「生協」「ユニブコープ」で行くところを「HILL PEAKで行きます!」って言ってくださって、本当にすごいなと思います。

加納さん:実はリニューアル後はどこにも「ユニブコープ」が出てないんです。ただのリニューアルだったらたくさん出ていたと思うんですが、HILL PEAKで一貫すると決めました。

 

-おそらく普通は、経営者の立場であれば売上とか効率とかいろんな雑念が入ってしまうと思うんです。それでも「コンセプトに立ち返ろう」という強い信念を持てているのは、なぜですか?

加納さん:もしかしたら経営者としては失格かもしれません。でもやっぱり “何のために事業しているのか”というところでは、学生と教職員さんが「生協さんが居てくれてよかった」と言っていただくだけなので、それ以上も以下も以外もない。そのためだったら、もちろん事務的にやらないといけないこともありますが、「遠回りなように見えるけど絶対に近道だよ」とスタッフにも伝えています。営利だけを目的にしてしまえば絶対にダメになる。

もし私が学生の立場だったら、そういう匂いがすると「もうこの組織いや!」って感じると思うんです。だから、自分の言葉に嘘や偽りがないかを常に問いながら一点の曇りがないようしています。

齋藤:本当に、加納さんは真っすぐな方ですよね。

木南さん:加納さんがよく言われるのは「結果は最後についてくるから、見てくれている人は私たちについてきてくれるはずだから、信じることをやろう」って。今日の撮影を手伝ってくれた学生たちも、自分たちが使っいて楽しいとか嬉しいとかそういうシンプルな感情で動いてくれてると思うんです。だから私たちの想いを素直に伝えていけば、それがじんわり波紋のように広がっていくと思っています。

加納さん:今日、ここに来ていた学生に「ここを設計してくれた建築家の齋藤さんだよ」と紹介したら、「ありがとうございます」って言ったんです。これってすごいことだなと思って。利用者が設計者にお礼を言ってくれたことにすごく感動しました。自分の居場所になっているってことですよね。

齋藤:生協スタッフの皆さんと学生さんとの関係性があっての “自分の居場所”になっているということは、僕たちとしても一番嬉しいことです。

 

-編集後記

大学生というのは、大人になる前の “心を整える時間” だと思います。この時に、どんな大人に出会ってどんな言葉をかけてもらえるかで、大人になる心構えとか憧れとか、変わってくるんじゃないかと。私自身もそうでした。そしていざ社会に出てみれば、心折れることなんてたくさんありますが、そんなとき、思い出せる場所や人がいるというのは自分にとって力になります。だからこそ、そんな居場所をつくっていらっしゃるみなさんに、私もまた勇気をいただきました。加納さん、木南さん、そして鳥取大学生協チームのみなさん、ありがとうございました。