「彼の感性はどこからやってくるんだろう」
鈴木くんとゆっくり話したことは実はそんなになくて、会うときはいつも何かしらのイベントにいる大勢の一人だし、しかも招待客というよりスタッフ側で、私たち以上にスタッフしてくれてたり(モバーズになる前からずっと笑)何かについてじっくり話したことはないんだけど、それでもこの距離感で感じることは「なんでこんなに感度が高いんだろう」という空気。
それを探りたくてずばり聞いてみた。鈴木くんのすきなもの、教えてください!
モバーズことスタジオモブの仲間たちに、各々すきなものをインタビューするシリーズ。第4回目は2023年10月に仲間入りしてくれた鈴木くんです。
「…。Leicaですかね」ちょっと考え込んで、迷いながらも答えてくれた。
「Leicaのどこがすき?」
「カメラのボディです。僕が愛用しているのはSLシリーズといって、アルミの塊から削り出してつくってるやつで、形状がフラットなんです」
なるほど、光とかじゃないんだ(笑)でもこの答えに、彼の感性が集約してるなと思った。
「いつからすきなの?」
「高校生のときに当時お付き合いしていた彼女と京都へ行くことになって、それでカメラを買おうと思ったのがきっかけです。周りにも写真好きがいて、みんなCanonとかNikonとか持ってたんですけど、誰とも被りたくなくて、誰も持っていないカメラがほしかった。僕のなかで“写真好き=オタク”っていう勝手なイメージもあったからそれとは違うんだぞ!っていうのもありまして(笑)で、ネットでいろいろ見ていたらLeicaのSLを見つけて、なんだこのカクカクしたボディは!っていう衝撃です。カメラの性能というよりプロダクトとしてのかっこよさに一目惚れしました。
でも結局、高校生で買える金額では到底なく、それでもLeicaがほしかったから、身の回りのものを全部売っぱらって、めっちゃがんばって、Leicaのコンデジを手に入れました。だけど実際使ってみるとなんとなく違和感がある。よくよく調べたら中身が他社製のOEMだったことが判明。がんばって買ったのにコンデジは手放しちゃいました(笑)」
「これは違うって、分かるもんなんだ(笑)その求めていたものがドイツデザイン!みたいな認識は当時まだなかったんだよね?」
「今思えば、そういう工業製品のデザイン性に惹かれてたんだと思いますが、その頃はもちろん分かってなくて、なんとなくかっこいいとか、機械ちっくだけど日本の家電にはないニュアンスがいいなとか、そんな感じだったと思います」
彼が抱いた直感的な違和感がどこにあったかというと、表面的なデザイン云々ではなく、触ってしっくりこないとか、ボタンの操作性とか、いわばUXみたいなことで、身体的なノイズが少ないものを潜在的に求めていたことは確からしい。
「どういうときに撮りたくなるの?」
「どういうとき…」
「何か撮りたいものがある?」
「うーん…。旅のはじまりみたいに、自分が感じるものの手前かもしれないです。本来、被写体の魅力を伝えるためのものがカメラだとすれば、対象はそこじゃないかもしれないけど、その場所へ行く目的は写真を撮ることではなくて体験はリアルにしたいというか、してもらいたいというか」
「でも、写真として撮るんだよね」
「おそらく僕にとって目で見た世界は広すぎるんだと思います。情報が多すぎて処理しきれない。カメラで撮ったものを見ることを通して自分が何を気にしていたのか、違和感があったのかを知ることは多くて、自分じゃない人のアンテナが写真を撮っている感覚はあるかもしれないです」
なるほどなぁ。鈴木くんのインスタを覗いてみると投稿写真に対してのコメントはほとんどなくて、言葉を足したくならないのかな?って思ってたけど、映し出されているのは何かを感じる手前のできごとだったと知った今、眠っているできごとを大きな声で覚ましてはいけないと思った。
「他のカメラじゃだめなのは、道具としてのノイズが少なくて身体の一部になってくれてるからかもしれません。自分の考えていることは分からないけど、身体のことならどう動いているのか把握できる。身体的にノイズが少ないことが僕にとっては大事みたいです。今、気づいたことですが…(笑)」
このインタビューを終えたあと、ヴィム・ヴェンダース監督の映画「PERFECT DAYS」を観に行った。そして思ったこと。たしかにこの世界には言葉になる手前のものが存在している。その気配を鈴木くんは自分なりにキャッチしているのかもしれない。
スズキカメラの世界