matilda

広島の電車通り沿いにある築40年の老舗ビルの3階にマチルダという美容室が誕生した。
以前はマッサージ専門店として活用されていたため、各室が仕切られた閉鎖的な空間であり、また全部屋に装飾が施された店内であった。

給排水設備の老朽化・空調設備や電気設備の容量不足など、すべての設備機器に課題があり、経年劣化は床壁天井を解体してみないと分からないという状況。部分的に細かく解体していく方法もあったが、余計なコストがかかるため計画解体を行い、仕上げの剥がし方や解体の仕方、設備配管や給排水ルートを事前にコントロールしながら解体自体をデザインへ取り込む計画とした。

matilda(マチルダ)の由来は、映画レオンの主演女優ナタリー・ポートマン演じるマチルダに魅了されたからとのこと。誰もが女性の響きと感じる名前である。話を掘り下げて聞いていくと、ブルックリンの街に対するあこがれや映画レオンの空気感、ビンテージが醸し出す古さが共存した空間を求めているように感じた。

ブルックリンという街はファッション文化を生み、ある種の美学を感じることができる場所である。その美学を読み解くと、かつて工業地帯や倉庫街で何もないエリアに有名アーティスト達が住みはじめたことによって、現在では高級住宅も建ち並ぶほど価値を育んできたという歴史をもつ。

内装においては、単に“ブルックリン風”にしてしまうと少し恣意的であり、廃りの速さを感じてしまう。持続的な変化を許容し、現在からつづく未来において、この場所が時代に左右されないような強さをつくるには、個性を読み解くことが必要だと考えた。

計画解体をしたときに現れた、想定通りと想定外。良い場合もあればその逆もある。ただその状況がここにしかない唯一無二の状態であり風景にもなり得る。解体した状態をクライアントと共有しながら、必要機能を打合せで決定を行い、ヒアリング、カット、シャンプー、セット、撮影、ショップという店内での一連の流れの中でそこにしかない風景をつくることによって多様なシーンが生まれる映画的シーンの創出を目指したプロジェクトである。

さて、これからどのようなストーリーが紡がれていくのだろうか。



場所|広島県広島市
用途|美容室
クライアント|matilda
設計/監理|株式会社スタジオモブ
施工|有限会社プロシード
撮影|exp 塩谷 淳